梅にウグイス
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今年も観梅の季節がやってきました。梅は開花した後の天候が作柄を左右しますので、是非とも良い気候が続いてほしいものです。
さて、春らしい景色の代表といえば、梅に鶯(ウグイス)です。早春に咲き誇る梅に、美しい緑色のウグイスが美しい声でさえずる姿が想像されます。
日本人は昔から「梅に鶯」が大好きです。日本最古、奈良時代の漢詩集である懐風藻に「梅に鶯」が初めて登場します。万葉集にも梅と鶯を題材にした歌が沢山収められています。
しかし、現実には咲いている梅の木に、ウグイスがやってきて、枝にとまることはほとんどありません。
ウグイスの主食は虫です。花の蜜は好物ではありません。しかもウグイスは大変警戒心の強い鳥で、主に薮の中に生息しているので、梅に限らず木の枝にとまっている姿を見かけること自体まれです。
それでも、梅の花を見ていると、きれいな緑色の美しい小鳥が梅の花をついばむ姿がよく見られます。この鳥は、ウグイスではなく、だいたいがメジロです。
メジロは目の周りが白いのが特徴で、目に切れ長の黒い線があるウグイスとは簡単に区別することができます。しかも、メジロの方がウグイスよりも鮮やかな黄緑色をしています。最近は「ウグイス色」をこのきれいな黄緑色と思われている方も多いですが、本来のウグイス色は緑がかった茶色で、もっと地味な色あいです。
メジロは花の蜜や果物などが大好きで梅の花に蜜を吸いに来ます。
このメジロの行動は、梅にとっては蜜を吸われるだけで何のメリットも無いのでしょうか。
いえいえ、梅にこそ、大きな利益があるのです。
梅の交配は同じ木の花粉では実を結ばない他家受粉です。そのまま誰も花粉を運んでくれなければ、花は咲いても実をつけることができません。この花粉を運ぶ役目をするのがメジロです。
梅は一般にミツバチなどの昆虫が花粉を運ぶ「虫媒花」とされていますが、メジロは木から木へ、花から花へ蜜を求めて移動し、梅の花に次々にくちばしを突っ込むことで、受粉を促し、ミツバチと同様の働きをしています。鳥に花粉を運んでもらう花を「鳥媒花」と言いますが、梅は「虫媒花」と同時に「鳥媒花」でもあるのです。
メジロやミツバチ等の花粉媒介者と、梅は蜜を提供する代わりに、子孫繁栄のための花粉を運んでもらっている持ちつ持たれつの関係です。自然界はうまくできていますね。
本当のところ「梅に鶯」は、古代中国の漢詩に由来する「松に鶴」「竹に虎」のように風流な花鳥風月を表すもので、現実の自然では、めったに目にすることはない組み合わせらしいです。
観梅に訪れた際には美しい梅の花を愛でると同時にそれに集まる鳥たちも観察してみてください。
観梅といえば、和歌山県みなべ町にある「南部梅林」が有名です。一目百万香り十里といわれる南部梅林は、日本最大級の広さを誇ります。かぐわしい梅の花の香りに包まれながら春を感じてください。
当社、梅見月も駐車場近くの売店で梅干しとお土産を販売しています。南部梅林に来られた際は、梅見月で梅干しのお土産を是非お求めください。
梅干しになるまでの過程で、大切な受粉が上手くいくことを願っています。